「ノスタルジアの魔術師」と称される小説家、恩田陸さんのおすすめ作品を紹介します。「六番目の小夜子」や「夜のピクニック」などは映像化されていますし、最近では「蜂蜜と遠雷」で直木賞を受賞されました。どこか懐かしいような切ないような情景描写が特徴的な作家です。
恩田陸さんは多くの作品を作ることを大切にしていて、とにかく作品数が多いです。時代によってジャンル・作風も随分違います。昔は学校生活系の作品も多かったですが、ミステリー系やSF系など様々です。個人的に好きなのは学生生活系を中心としたノスタルジックな雰囲気が出ている作品でやや古い作品群です。
以前断捨離をした時に全ての本を捨てたのですが、最後まで残ったのが恩田陸さんの本でした。そんな捨てたくても捨てられないと感じさせるほどのお気に入りの作品を紹介します。
ネバーランド
舞台は、伝統ある男子校の寮「松籟館」。冬休みを迎え多くが帰省していく中、事情を抱えた4人の少年が居残りを決めた。ひとけのない古い寮で、4人だけの自由で孤独な休暇がはじまる。そしてイブの晩の「告白」ゲームをきっかけに起きる事件。日を追うごとに深まる「謎」。やがて、それぞれが隠していた「秘密」が明らかになってゆく。驚きと感動に満ちた7日間を描く青春グラフィティ。
集英社文庫
冬の年末年始のなんとなく切ないような雰囲気とそれだけでは終わらない恩田陸らしいブラックなミステリーが組み込まれています。華やいだ雰囲気の街に路線の終着駅から海を眺めながら電車に揺られて買い出しに行くシーンは特に記憶に残っています。クリスマスや年末年始の時期に読みたくなります。初めて読んだ恩田陸の作品で、これをきっかけに恩田陸に一気にはまりました。
蛇行する川のほとり
演劇祭の舞台装置を描くため、高校美術部の先輩、香澄の家での夏合宿に誘われた毬子。憧れの香澄と芳野からの申し出に有頂天になるが、それもつかの間だった。その家ではかつて不幸な事件があった。何か秘密を共有しているようなふたりに、毬子はだんだんと疑心暗鬼になっていく。そして忘れたはずの、あの夏の記憶がよみがえる。少女時代の残酷なほどのはかなさ、美しさを克明に描き出す。
集英社文庫
初夏から夏頃にかけて読みたくなる作品。さわやかな雰囲気、どんよりと暑い夏のまどろんだような雰囲気、両方あります。それらが休暇中の高校生やそこで発生する疑心暗鬼になるような忘れていたミステリアスな怖さと噛み合っていて完成度が高いです。主人公は普通の女子高生のような雰囲気なので、憧れの先輩の家での合宿にわくわくしている気持ちがよく伝わってきます。感情移入しながら読み進められて知らない間にミステリーに取り込まれて行く、世界に入り込んでいける作品です。
麦の海に沈む果実
三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。二月最後の日に来た理瀬の心は揺らめく。閉ざされたコンサート会場や湿原から失踪した生徒たち。生徒を集め交霊会を開く校長。図書館から消えたいわくつきの本。理瀬が迷いこんだ「三月の国」の秘密とは?この世の「不思議」でいっぱいの物語。
講談社文庫
冬の時期に読みたくなる作品。おそらく北海道の釧路湿原あたりが舞台です。孤立したような世界で優秀な生徒達の寮生活を描きながらもブラックなミステリーも出てきます。特に校長の雰囲気が魔法使いのようで、世界観もファンタジー色があるのでハリーポッターのような感覚で楽しむこともできます。ただ雰囲気はどこかノスタルジックなのでそこは恩田陸です。
三月は深き紅の淵を
すべてが謎めいた1冊の本はどこに?
講談社文庫
鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に2泊3日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、10年以上探しても見つからない稀覯本(きこうぼん)「三月は深き紅の淵を」の話。たった1人にたった1晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
こちらも冬に読みたくなる作品。暖かな豪華な家に招かれて数人で1冊の本を探しながら数日を過ごすというもので、寒い冬には自分も家にこもりながらゆっくりとこの本を読んで過ごしたくなります。「麦の海に沈む果実」とほんの少しだけ相互関係があるのですが、別々に読んでも全く問題なく楽しめます。
MAZE
アジアの西の果て、荒野に立つ直方体の白い建物。一度中に入ると、戻れない人間が数多くいるらしいその「人間消失のルール」を解明すべくやってきた男たちは、何を知り得たのか?人間離れした記憶力を持ち、精悍な面差しながら女言葉を繰り出す魅惑の凄腕ウイルスハンター・神原恵弥を生み出したシリーズ第一弾!
双葉文庫
異国で不思議な謎に挑む話。ゆっくりと問題解決に向けて数人のメンバーで共に寝泊まりする形で話は進みます。外界と断絶された世界である点は上記で紹介してきた学生生活系の作品と同じですね。恩田陸の作品はこんな風に孤立した舞台で数人で共同生活をするというパターンが多いです。主人公が女言葉を使うが優秀という個性的な人物で、彼の行動を見ているだけでも楽しめる作品。
クレオパトラの夢
北国のH市を訪れた神原恵弥。不倫相手を追いかけていった双子の妹を連れ戻すという名目の裏に、外資製薬会社の名ウイルスハンターとして重大な目的があった。H市と関係があるらしい「クレオパトラ」と呼ばれるものの正体を掴むこと。人々の欲望を掻きたててきたそれは、存在自体が絶対の禁忌であった―。謎をめぐり、虚実交錯する世界が心をとらえて離さない、シリーズ第二作!
双葉文庫
「MAZE」と同じ主人公、神原恵弥のお話。冬の函館を舞台としていて五稜郭なんかも出てきます。冬のノスタルジックさが函館という舞台で倍増しています。寒い町に繰り出して兄妹でお酒を飲むシーンなどは印象的です。ブラックなミステリー感はなく、謎解きをしながら冬の北海道を周るというもので、爽やかで気持ちの良いドライブをしているような感覚で読み進められます。
まとめ
こうみると冬を舞台にした作品が多いですね、6作品中4作品。年末年始、普通の人たちは実家に帰ったりしながら家族と過ごすというなかで、何か事情を持った人物達が断絶された世界で共に暮らすというパターンが多いです。切ないような懐かしいような、恩田陸の真骨頂であるノスタルジックを感じられる作品たちです。